著者インタビュー

今、不動産ビジネスは次世代型に進化すべきだ!<後編>

『広告禁止!ネット不動産進化論』著者
 リングアンドリンク株式会社 代表取締役 金丸信一さん

9月3日に発売された『広告禁止!ネット不動産進化論』が、早くも業界内外を騒がせているようです。もちろんこの本は、不動産屋さん向けに書かれたものではあるのですが、ネットでビジネスを展開する他業種の方からも「参考になった」という声を多くいただいています。

それでは、「前編」に引き続き、インターネットビジネスに対する金丸さんの鋭い洞察力をご披露いただきましょう。

今後、日本のネットビジネスはどのように変わっていくか?

― 前回は、金丸さんがリクルートという会社を「いつも世の中の大事なところを露払いのように示してくれる会社」と位置づけている…というお話の途中だったと思いますが、今後、日本のネットビジネスはどのように変わっていくかについて、もう少しお伺いできますか?

金丸 私はあのリクルートでさえ、広告収入で稼ぐことの限界を感じているんじゃないかと思って見ています。今後、リクルートの事業の中核をなしていくのは、転職に関するエージェントサービスになるでしょう。つまり、登録者と転職先企業のマッチングを行い、「年収の何%いただきます」みたいなビジネスです。「情報」と「情報」の間に入って、それを精査したり、調整したり、選んだり…そこにはシステムだけでなく、当然「人」も介在しています。ネットであろうとリアルであろうと、要はここに儲けのカラクリがあるのです。もっと言えば、「ネットでリアルビジネスの効率を上げる」というポイントにいち早く気づいた企業の勝ちですね。ビジネスの肝である「お金を稼ぐ」という部分には、やはり「人」が介在しないとダメなんです。

しかしながら、人を集めることに関しては、ネットが断然有利です。たいしたコストもかからず、距離的な壁も超え、24時間体制で集客できるわけですから…。ですから、「ホームページからいかに多くのアドレスを集め、それをデータベース化する」ことはもちろんですが、この本にも書いたように「良質なお客様と繋がれる」ようなホームページ運営をしないとダメなんです。

― 「良質なお客様」とは、具体的にはどんな方ですか?

金丸 不動産業で言えば、「本気で家を借りるか買うかしたいと考えているお客様」つまり、「契約に一番近いお客様」のことです。これは、店舗運営も同じですが、「ひやかしの客」ばかり相手にしていては、忙しいばかりでちっとも儲かりませんよね。ネットビジネスもまったく同じです。よくみなさんサイトの「アクセス数」を気にしてますが、単純な「数」ではなく、その「中身」が大事なんですよ。つまり、アクセスしてくれた人の中に、「何人のリピーターがいるかを分析する」ということです。とくに不動産のような高額取引では、「初めてサイトを訪れて衝動買いする」なんてことは絶対ありませんから、本気のお客様であればあるほど「何度も」ページを見に来ているはずなんです。だからこそ、ホームページの「運営」が大事です。しばらく更新してないとか、無くなった物件をそのまま掲載しているなんてもってのほか!このあたりのことは、この本に詳しく書いてありますので、ぜひ繰り返し(できれば3回以上)お読みになってみてください(笑)。

だた、ここで勘違いして欲しくないんですが、私は「今すぐ契約する気のないお客様は相手にするな」と言っているわけではありません。人は人生のなかで、必ず何度か不動産屋さんのお世話になるじゃないですか。そもそも、お客様は「不動産屋さんに行くのが怖い」わけですから(このあたりは、前著『街の不動産屋さん、“待ち”の経営から抜け出す』に詳しく書いてあります)、1回信頼できる不動産屋さんと出会ったら、また次もそこで契約したいと考えるはずですよね。しかし、そういうお客様心理に未だに気づいてない不動産会社が多いのが残念でならないんです。

今すぐ契約しないお客様ともずっと繋がっていることが重要

― なるほど、そうなると今すぐ契約しないお客様とも、ずっと繋がっていることが重要になってくるわけですね。

金丸 そのとおりです! そこに気づくだけでも、ライバルと確実に差がつきます。もちろん、ネットがない時代は、営業マンは「今月の売上げに繋がらないお客様」を相手にする時間なんてなかったわけですが、今は『メール』があるじゃないですか。この本でも熱く語ったように、私は『メール営業こそが不動産ビジネスを変える』と思っているくらいです。すぐに契約しそうもない自分にも、ずーっとメールを送り続けてくれる不動産屋さんがあれば、「いつか自分が契約するときは、ここを訪ねてみようかな」と自然に思うじゃないですか。

同じように、契約後のお客様ともずっと繋がっていくことが大事なんです。失礼ながら、不動産業界には「売りっぱなし」の傾向がありますよね。ハンターのように常に「新規客」を探し続けているんです。しかし、契約したら「いっちょ上がり!」。また、次のお客様を探しに走る…。これでは、一生楽になりません。

先ほども言ったように、人は人生のうちで何回か不動産会社のお世話になるわけで、賃貸のお客様なら2年後には更新があるし、結婚して子どもでも産まれれば、一軒家を買うかもしれない…つまり、出会ったお客様と一生繋がっていれば、そこから自然と需要が出てきますから、広告をバンバン打って、新規客を刈り取るスタイルから卒業できます。これは不動産業界に限ったことではありませんが、「顧客化」できない会社に未来はないと思っています。その「顧客化」に最も重要なツールが『メール』です。しかし、未だにメールを使いこなす不動産会社が少ない…。

― 確かに、不動産屋さんから「そろそろ、更新の時期ですね」なんてメールをもらったことは、1度もありませんね。これだけ、メールが主流の世の中になっているのに、メールを営業の武器にする不動産屋さんはまだまだ少ないわけですね?

金丸 私は、この8年間、本書に書いたようなことを叫び続けてきたわけですが、未だに「電話とFAX」が不動産営業の主要なツールみたいです(笑)。しかし、それが通用するのも、「ネットのお客様が一回転していないから」だと考えているんです。インターネットがこれだけ普及していても、今現在は、実際に不動産屋さん巡りをして物件を探しているお客様の方が圧倒的に多いでしょう。不動産屋さんにとって、「会って」営業するのは得意分野ですから、何も今までのやり方を変える必要がない、と考えているんだと思います。

しかし、一度でも「ネット」でじっくり物件を探し、営業マンとメールのやり取りをしながら契約まで至った経験を持ったお客様は、次に不動産を探すときには、絶対に「リアル」に逆戻りしないと断言しておきましょう。つまり、インターネット不動産成功のカギは、この「2度目の客」と繋がれるかどうかなのです。「2度目の客」が主流の世の中になれば、それこそ不動産屋さんは駅前に店舗を構える必要も、多額の広告費を払い続ける必要もなくなります。現に、アメリカはそうなっていて、不動産業は、完全に「エージェント」として存在し、お客様とは店舗でなく「現地」で待ち合わせするようなスタイルが一般的ですから…。

「2度目の客が重要だ!」-「商売」でなく「経営」をせよ!

― この本には、そんな不動産屋さんの未来像がみごとに描かれていましたね。最後に、金丸さんがこの本で一番伝えたいことは何でしょう? 読者のみなさんにメッセージをお願いします!

金丸 私が一番伝えたかったのは、まさにこの「2度目の客が重要だ!」ということです。このことに気づけば、不動産ビジネスそのものが大きく変わると思うからです。

私はこの8年、不動産業界とおつきあいさせていただいてきましたが、日本の不動産会社(ハウスメーカーやディベロッパー以外の純粋に仲介や売買を営む会社という意味)のほとんどは中小零細企業であり、本当の意味で「企業」として成長してきた会社はありません。厳しい言い方をすれば、「組織として大きくしよう」と考え、まじめに経営している経営者がすごく少ないんです。せいぜい「店舗が15店舗あります」みたいな社長が成功者とされていますが、その15店舗が組織化されていたり、相乗効果を発揮しているわけでも何でもない…。ただ1店舗1店舗がエリアを変えて同じことをやっているだけだったりします。

しかし、この本を本気で読み込んで「なるほど!」と納得していただき、不動産会社の経営者が考え方を変えていただけば、日本で初めて「大企業」と呼べる不動産会社、それこそ上場するような不動産会社が誕生するんじゃないかと考えているんです。ぜひ「商売」でなく「経営」をして欲しい…今、この本を書き上げて、ますますその思いを強くしています。「成長するためにどうするか!」経営者が考えるべきことは、結局これに尽きるわけです。

「いい仕事」があれば儲かるわけではありません。「いい会社」を作れば「いい仕事」が来るんです。儲かる会社が「いい会社」じゃなく、「いい会社」だから儲かる…なんだか言葉の遊びのようですが、これが真実だと思います。日本に少しでも「いい不動産会社」が増えるために、この本が役に立ったらいいなと思ってます。ぜひ「3回は繰り返して」読んでみてください。

― 本を書き上げた後も、ますます“熱い”金丸さん。「この本が完成するまでには、週末ごとにホテルにカンヅメになった苦しい日々があったんだ…」とちょっと懐かしそうに教えてくださいました。楽しいお話の数々、本当にありがとうございました。(インタビュアー:鈴木ようこ)

金丸 信一(かねまる・しんいち)

東京都杉並区出身。埼玉県所沢市にあるリングアンドリンク株式会社 代表取締役。父親の経営する金型工場を、生産技術部門中心のシステム開発メーカーへと発展させる。90年代後半よりインターネットビジネスを研究し、2001年に不動産営業支援システム「@dream(アットドリーム)」を発売。以後、700回を超える講演、執筆、各社顧問及び幹部教育などで活躍中。

ホームページの制作に終わらない運営方法、メール営業手法、不動産会社の組織化など、ソフトウエアの提供だけでなく、徹底的にサポートすることによって成功に導いた不動産会社は全国に多数。それまで結果の出ないソフトウエアしかなかった不動産業界において、数少ない結果の出るシステムと絶賛されている。

全国各地で行われるインターネット不動産アカデミー、@dream操作講習会、ユーザー会、@dream大賞などをキヤノンシステムアンドサポート株式会社と共同で企画し、年間数千名の不動産業者が参加している。これらのインターネット不動産勉強会は、実際に成果を出した不動産会社が、自社の事例を余すところなく発表することでも有名。

2005年に上梓した『街の不動産屋さん“待ち”の経営から抜け出す』は、インターネット時代の不動産業務を初めて具体的に記した業界初の著書。翌06年には『インターネット不動産経営~勝つための11のセオリー~』にて、全国各地の不動産会社のインターネットでの取り組みを紹介した。

@dream公式サイト: http://www.at-dream.jp/
オフィシャルブログ: http://blog.at-dream2000.jp/